仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)96号 判決
原判決中、控訴人等の本件訴願裁決の取消を求める訴を却下した部分を取消し、控訴人等の右請求を棄却する。
控訴人等のその余の訴に関する本件控訴を棄却する。
訴訟の総費用は控訴人等の負担とする。
二、事 実
控訴人等代理人は「原判決を取消す。本件を山形地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴人等代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴人等代理人が、中平田村農地委員会は昭和二十三年二月九日本件農地の売渡計画を立て、同年三月二十八日その公告をし、同年四月六日まで縦覧に供した。本件売渡計画については控訴人等は中平田村農地委員会に対し異議の申立をしないで、昭和二十三年七月二十五日山形県農地委員会に対し訴願した。山形県農地委員会は当時未だ事務に馴れなかつたため、右訴願を受理し実質的審査をして訴願棄却の裁決をした。本件農地の売渡処分は昭和二十三年五月二十九日売渡の相手方に売渡令書を交付してこれをしたものである。前記裁決を控訴人等に告知した日は昭和二十三年十月十四日から同月二十日までゞあるから原判決事実摘示中の被控訴人等の主張を右のように訂正する。と述べ
控訴人等代理人が、本件農地の売渡計画については中平田村農地委員会に対し、「異議申立書」と題する書面は提出しなかつたけれども、内容がこれに該当する文書を提出して異議の申立をしたが受理されず、そのまま返還されたものである。控訴人等が訴願した時期及び本件農地の売渡処分の日時がいずれも被控訴人等主張のとおりであることは認める。と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、こゝにこれを引用する。
(証拠省略)
三、理 由
本訴中中平田村農地委員会、山形県農地委員会に対し提起された分については、農業委員会法の施行に伴う関係法令の整備に関する法律附則第三項により、夫々中平田村農業委員会、山形県農業委員会に対する訴と看做される。よつて、以下控訴人等の各訴の適否について判断する。
一、売渡計画の取消を求める訴について、
(イ) 控訴人佐藤権四郎の分
自作農創設特別措置法第十九条、第七条第四項によれば、農地売渡計画について異議訴願の申立をなし得る者は同法第十七条の買受の申込をした者に限られている。蓋し、同法第十八条によると、市町村農地委員会が農地の売渡計画を定めるに当り、売渡の相手方とすべき者は、第十七条の規定による買受の申込をしたものでなければならないのであるから、買受の申込をしない者から売渡計画に対する不服を主張する実益は通常存しないわけである。而して、控訴人佐藤権四郎は本件農地の解放を申出た前所有者であつて、これにつき買受の申込をしたものでないことは、同控訴人の自ら認めるところであるから、本件農地の売渡計画に対し異議訴願の適格を欠くことはいうまでもない。尤も売渡計画に対し異議訴願を申立てる適格がないからといつて、当然に売渡計画の取消変更を求める訴の提起が許されないと即断すべきでなく、その取消変更を求める法律上の利益の存する限り訴を提起し得るものと解すべきであるが、(本件において控訴人権四郎がかゝる法律上の利益を有するかどうかは別として)、この場合における出訴期間は自作農創設特別措置法第四十七条の二によりおそくとも売渡計画公告の日から二ケ月以内と解しなければならない。然るに本件売渡計画が昭和二十三年三月二十八日公告されたことは、後段認定のとおりであり、本訴の提起が、同年十一月三十日であることは、記録上明らかであるからして、控訴人権四郎の本件売渡計画の取消を求める訴は不適法たるを免れない。
(ロ) 控訴人佐藤良治、佐藤繁治、佐藤広治、渡部琢児の分
行政事件訴訟特例法第二条、自作農創設特別措置法第十九条、第七条第四項によれば、農地の売渡計画の取消変更を求める訴は異議訴願の手続を経ることを要し、そのいずれかの前提手続を欠く訴は不適法と解すべきである。尤も行政事件訴訟特例法は昭和二十三年七月十五日から施行せられ、同法附則第二項により、同法施行前に生じた事項にも適用せられるのであるが、同法施行前には昭和二十二年法律第七十五号第八条により農地の売渡計画の取消変更を求める訴についても、異議、訴願の手続を経ることを要しないと解される関係上、右行政事件訴訟特例法施行当時既に農地売渡計画に対する異議申立期間を経過している場合には、同法施行により訴の提起の権利を奪うことになるから、このような場合には、同法第二条所定の正当な事由あるときに該当するものとして、同法施行後においても、異議訴願の手続を経ることなくして訴を提起し得るものと解すべきところ、成立に争のない甲第六号証、原審及び当審証人阿部茂作の証言によれば、本件農地の売渡計画は昭和二十三年三月二十八日公告せられ、同日から四月六日まで縦覧に供せられたこと、及び右控訴人等は右売渡計画につき適法な異議申立をしないで、昭和二十三年七月二十五日山形県農地委員会に訴願の申立をなし、同委員会においてこれを受理し実質的審査をしたうえ訴願を棄却する裁決をした事実を認めることができる。右認定に反する原審及び当審における控訴人佐藤権四郎本人尋問の結果は措信しない。而して売渡計画公告後約四ケ月過ぎた後に異議申立の段階を経ないでなされた右訴願が不適法と認めるべきことは後に説明するとおりである。然らば、右控訴人等は本件売渡計画の取消を求めるにつき、適法な異議訴願の手続を経ていないけれども、行政事件訴訟特例法施行前、既に本件売渡計画に対する異議申立期間を経過していたから、適法な異議訴願の手続を経ることなくして本件農地の売渡計画取消の訴を提起したことは必ずしも不適法とはいえない。しかし、この場合における出訴期間は自作農創設特別措置法第四十七条の二によりおそくとも売渡計画公告の日である昭和二十三年三月二十八日から二ケ月以内と解しなければならない。
しかるに本訴の提起が、右二ケ月を経過した後である昭和二十三年十一月三十日であることは記録上明らかであるから右控訴人等の本件売渡計画の取消を求める訴は不適法なものといわねばならない。
よつて、控訴人等の右訴を却下した原判決は結局相当であつて、この分に関する本件控訴は理由がない。
二、訴願裁決の取消を求める訴について、
自作農創設特別措置法第四十七条の二によれば、同法による行政庁の処分の取消変更を求める訴は当事者が処分のあつたことを知つた日から一ケ月又は処分の日から二ケ月以内に提起しなければならないのであるが、右処分の日とは行政処分の効力の発生した日を指すものであり、又処分のあつたことを知つた日とは、その処分の効力の発生を前提とするものであることはいうまでもない。これを農地売渡計画の訴願の裁決についてみるに、自作農創設特別措置法施行規則第七条の一の二、第四条によると、売渡計画に対する訴願の裁決をしたときは、裁決庁は遅怠なく裁決書の謄本を訴願人に対して送付しなければならないのであつて、特段の事情のない限り訴願の裁決書の謄本が訴願人に送付せられたとき裁決の効力が発生すべきものと解すべきであり、従つて、右裁決の取消変更を求める訴の出訴期間は訴願の裁決書の謄本の送付せられた日又は送付されたことを知つた日から夫々起算すべきものというべきである。尤も送付された裁決書の謄本を訴願人が正当の事由がないのに殊更に受領を拒んだような場合には、その謄本を受領しなくとも受領し得べき状態におかれたときに送付されたものとみるのを至当とすべきところ、成立に争のない乙第一号証の一、二と原審及び当審証人阿部茂作の証言とを綜合すると、控訴人等の訴願につき県農地委員会のした裁決書の謄本は、昭和二十三年十月十三日中平田村農地委員会書記阿部茂作が地方事務所を介し送付方の委託を受け、同人は同月十四日頃から二十日頃までの間に、偶々控訴人等が同委員会事務所に出向いた際に、控訴人等に対し裁決書の謄本を受取つてくれるように話したけれども、控訴人等は印章を持参しておらない等の理由によりその場ではこれを受領しなかつた事実が認められる。しかし、右は正式に送付の手続がとられたわけではなく、また控訴人等において殊更に受領を拒んだものとは認め難いからして、右のような事実があるからといつてその時に既に裁決書謄本が送付されたものとみることはできない。然らば本件裁決の取消を求める訴の出訴期間は、控訴人等が本件裁決書謄本の送付を受けた日であること当事者間に争のない昭和二十三年十一月六日から起算さるべきであり、同日から一ケ月内に本訴が提起されたことは記録上明らかであるから、本件裁決の取消を求める訴が出訴期間経過後に提起された不適法なものとして却下した原判決はその当を得ない。しかし、控訴人佐藤権四郎は本件売渡計画について異議訴願を申立てる適格を有していないことは前説明のとおりであつて、県農地委員会も右の理由により同控訴人の訴願を却下したものであることは成立に争のない甲第五号証により明らかであるから、右裁決の取消を求める同控訴人の訴は、更に原審に差戻して審理を重ねるまでもなく理由のないこと明白なりといわざるを得ない。また控訴人佐藤権四郎を除くその他の控訴人等の訴願が村農地委員会に対する異議申立の段階を経ずしてなされたことは前認定のとおりであつて、自作農創設特別措置法第十九条第七条第四項によれば、農地売渡計画に対する訴願は、異議決定に対し提起せらるべきであつて、異議決定は訴願の前審手続をなすものであるから、異議決定を経ずしてなされた本件訴願は、本来不適法であつて、仮令山形県農地委員会が誤つてこれを受理し、実質的審査をしたうえこれを棄却したとしても右訴願が適法化さるべきものではない。従つて仮令原判決を取消し本訴を原裁判所に差戻し、原裁判所において控訴人等の請求どおり本件裁決を取消しても、それは実質的理由に基くものではなく、前記のとおり訴願自体が不適法なものであることを理由とするものでなければならないことは明らかであるのみならず、一、で認定したとおり控訴人等が本件農地の売渡計画の取消変更を求めることができない以上、本件訴願棄却の裁決を取消しても法律上何等の利益はないから、控訴人等の本件請求は訴の利益を欠くものといわなければならない。以上のような場合には事件を原裁判所に差戻すことなくして控訴人等の請求を訴の利益なきものとして棄却することができるものと解するのが相当である。
三、農地売渡処分の取消を求める訴について、
本件農地売渡処分が昭和二十三年五月二十九日夫々の売渡の相手方に売渡令書を交付してなされたことは当事者間に争がないから同日売渡処分の効力が発生し、その取消変更を求める訴は、自作農創設特別措置法第四十七条の二によりおそくも同日から二ケ月内に提起されなければならない。然るに本件訴は右期間経過後である昭和二十三年十一月三十日に提起されたことは記録上明らかであるから、控訴人等の本件訴は不適法といわなければならない。尤も本件農地の売渡計画について控訴人等から訴願がなされ、その訴願の裁決書の謄本が昭和二十三年十一月六日控訴人等に送付されたことは前記のとおりであるが、控訴人等が訴願をしたのは前示のように昭和二十三年七月二十五日であつて、売渡処分の日の後であるのみならず訴願の申立自体不適法なものであることは前認定のとおりであるから、右訴願に関する事実は本訴が出訴期間を経過後に提起された不適法なものと解するのに何等の妨げとならない。本件売渡処分の取消を求める訴を不適法として却下した原判決は正当であつて、この部分に関する本件控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十三条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 石井義彦)
原審判決の主文および事実
一、主 文
原告等の訴は、これを却下する。
訴訟費用は、原告等の負担とする。
二、事 実
原告等は、被告中平田村農地委員会(以下村農委と略称する。)が樹立した山形県飽海郡中平田村大字小牧字北五丁野二十三番ノ二田二反二十四歩を訴外岡田感一に、同所同番ノ三田二反二十四歩を訴外渡辺竜美に、同村大字大野新田字高野場十五番ノ二田二反二十四歩を原告佐藤広治、同渡辺琢児両名に同村大字小牧字北五丁野六十二番田二反二十四歩を訴外堀彦蔵にそれぞれ売り渡す為の売渡計画、被告山形県農地委員会(以下県農委と略称する。)がした原告等の右売渡計画に対する訴願棄却の裁決及び被告山形県知事がした右売渡計画に基く農地売渡処分は、いづれもこれを取り消すとの判決を求め、その請求の原因として、被告村農委は、昭和二十三年一月二十三日前記売渡計画を決定したので、原告等は、被告県農委に訴願を提起したが、同年十月一日棄却され、同年十一月六日その裁決書を受領した。又被告知事は、右売渡計画に基き、売渡通知書を発し、農地売渡処分をした。しかしながら、被告村農委がたてた右農地売渡計画には、左の如き違法がある。
第一、原告佐藤権四郎は、前記自作田をその他の田地とともにその四男恒徳を分籍独立させて、これに耕作させる計画であつたが、同人は、未成年者であるのと、今にわかに決行する時機ではなかつたので、一応同原告の分家や側近の農家でこれ等の田地を耕作して手伝つてきたこともある他の原告等に売り渡すことを条件とし、被告村農委に右田地の解放を申し出たところ、同農委は、これを諒として買収したので、早速他の原告等にその趣を伝え、前記田地をそれぞれ配分し、当人等もこれを了承して着々自作としての準備を整え、折柄時期でもあつたので、施肥耕耘まで実行したのであつた。しかるに、被告村農委は、意外にもそれまでとつた態度を突如変更して、前記売渡計画をたてたのは、被告村農委が、一たん了承した条件を無視した違法がある。
第二、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する。)第十六条、第十八条、第八条、第二十条によると、政府で買収した農地及び政府の所有に属する農地を売り渡すには、市町村農地委員会の定める農地売渡計画によらなければならないのであつて、その売渡計画には一売渡の相手方の氏名又は名称及び住所、二売り渡すべき農地の所在、地番、地目及び面積、三対価、四売渡の時期を定めて遅滞なくその旨を公告し、且つ公告の日から十日間市町村の事務所において右事項を記載した書類を縦覧に供し、これに対する異議の申立がないか、又は異議の申立があるときは、これに対する決定をし、更に訴願の提起があるときは、これに対する裁決のあつた後、市町村農地委員会は、遅滞なく当該売渡計画について、都道府県農地委員会の承認を受け、その承認があつたとき、都道府県知事が、該売渡計画により、売渡の相手方に対し、売渡通知書を交付して、これをすることになつている。しかるに、被告村農委は、前記農地売渡計画につき、公告、縦覧の手続をふまなかつたのであるから、自創法第十八条に反する違法がある。
第三、山形県知事は、昭和二十三年二月二日原告に買収令書を交付して、前記農地を買収したのであるが、同年一月二十三日前記売渡計画を決定したのである。即ち、右売渡計画決定当時は右農地の買収処分は、確定せず、その所有権は、原告佐藤権四郎にあつて政府には移転していない。しかるに、村農委は、売渡計画をたてたのであるから、自創法第十六条に該当しない農地を対象とした違法がある。
このように、被告村農委の樹立した前記農地売渡計画は、違法であるのにもかかわらず、被告県農委が、右農地売渡計画を支持して原告等の訴願を棄却した裁決及び被告知事がした右農地売渡計画に基く農地売渡処分にも同様の違法がある。従つて原告等は、これ等違法な売渡計画、訴願の裁決及び売渡処分の取消を求めるため本訴提起に及んだのである。なお、原告佐藤権四郎は、前記農地につき買受の申込をしなかつたが、その他の原告は、買受の申込をしたものであると陳述した。(証拠省略)
被告等は、本案前の抗弁として、原告等の訴を却下するとの裁判を求め、その理由として、原告等が取消を求める売渡計画の縦覧期間は昭和二十三年三月二十八日から同年四月六日までであり、被告県農委がした訴願棄却の裁決を原告等に告知したのは昭和二十三年十月十五日から同月二十日までの間であるが(但し、右裁決書が、昭和二十三年十一月六日原告に到達したことは、認める。)原告等が本訴を提起したのは、同年十一月二十九日であるから、原告等の本訴提起は、自創法第四十七条の二の出訴期間を徒過したものであり、原告等の訴は不適法のものであると陳述し、
本案につき、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、原告等の主張事実中、原告等が、被告村農委に対し、その主張農地の解放の申出をしたこと、被告村農委が、樹立した右農地に対する売渡計画に関し、原告等は、被告県農委に訴願を提起したが、同年十月一日棄却され、同年十一月六日その裁決書を受領したこと、被告知事が、右売渡計画に基き、売渡通知書を発し、農地売渡処分をしたこと、政府で買収した農地及び政府の所有に属する農地を売り渡すに当つては、その主張するような法定の手続をふまなければならないこと及び原告佐藤権四郎は、買受の申込をしないが、その他の原告は、買受の申込をしたことは認めるが、その余の事実は争う。原告等の主張は、理由がない。殊に、原告佐藤権四郎は、買受の申込もしていないのであるから、異議訴願等の手続はもちろん本件訴訟もできない。従つて、同原告の請求は、この点においても理由がなく、結局、原告等の本訴請求は失当として棄却されなければならない。なお、原告主張の農地中北五丁野六十二番田二反二十四歩は、尾形嘉内の所有である。又、原告主張の農地に対する買収令書の交付は、昭和二十三年二月四日と同年五月十五日の二回になつていて、昭和二十三年二月四日は、尾形嘉内の分について、同年五月十五日は、その他の分について、交付したのであつて、売渡期日は、前者が昭和二十二年十二月二日、後者が昭和二十三年二月二日にそれぞれ遡及させたものであると陳述した。(証拠省略)